大学への通り道、民家が多いせいか季節の植物が多々見られます。
季節も初夏になったので今まで台頭していたものたちが段々しょんぼりしていき、これからが旬のものたちはぴっちぴちに咲き誇っています。
家の前の何かの事務所の前庭にはアガパンサスがにょきにょきしているし、阪急沿線の土手っぽいところにはオシロイバナやヤブガラシが勢力を広げてきています。
クチナシも今が盛りなのでしょう、散歩をするとよく香りがただよっています。
桔梗の花は夏の終わりや初秋に咲くものだとばかり思っていましたが、何故かうちの周りではわんさか桔梗が咲いています。
ラズベリみたいな木苺もどんどん熟してきているので、その家の前を通るたびにパクってラズベリ酒をこさえたい衝動にかられます。
好きな散歩ルートに立派な蛍袋の鉢植えがあり、昔蛍袋に蛍を入れて、街灯もない真っ暗な畦道を歩くのが夢だったなぁと思い出します。
花が大好きです。
小さい頃は暇さえあれば植物図鑑を読んでいたし、その辺に生えているものなら木でも雑草でも何でも名前を知っていました。
小学生の頃には植物博士という称号が与えられたものです。
母も両家の祖母もガーデニングが大好きですから、きっとそういうことが好きな血脈なのでしょう。
だから大人になった今でも『ぁ、今は〇〇の時期なんだね。』とか『あそこの〇〇キレイだね』と割と自然に口から出てしまいます。
けれど元カレと付き合っていたころ上のようなことを言うと、にくにくしげにこう言われました。
『そういうこと言われると、まるで俺が花の名前も知らないバカみたいに思ってるように聞こえる。俺をバカにするな。』
本人はちょっと拗ねたつもりだっただけなのかもしれません。
自分がよく知らない話題を振られたり、場がそれで盛り上がると途端に不機嫌になったり、何とか自分の話せる話題に無理矢理持っていこうとする人でしたから。
けれどそれ以来、どんなにバラがキレイでも、その年初めてのキンモクセイが咲いても、口をつぐむようになりました。
『あたしはあなたをバカになんてしていないよ 。』ということを示すためだけに。
その内、あたしは記憶の中から花の名を殺していきました。
その人と別れてしまった今でも、よっぽど有名なもの(バラだとかイチョウだとか)を除いてその子達の名前は思い出せません。
あぁこのお花、大好きなのに、何て名前だったっけ?
お花のことだけでなく、何かをしようとした次の瞬間自分が何をしようとしたか忘れてしまったり、健忘が起こってしまうのは決してお酒や薬のせいだけでなく、記憶の中から殺されてしまったお花達の復讐なのではないかしら?
と、最近よく思うのです。
でももしそれが事実なら、あたしは甘んじてそれを受け入れよう。
そうされても仕方のないことをあたしはあなたたちにしてきたのだから。
だからせめて、もしあたしが死んでも棺にお花は入れないでください。
代わりにどこでもいいから、なんでもいいからお花の種か苗を植えてください。
それがあたしができる唯一の罪滅ぼしです。
できたら芍薬がいいな。
お花はキレイだし、もしお花が萎れても葉や根は薬として誰かを助けることができる。
ゃ、まだ死なないけどさ。
まるで遺書のようになってしまった。笑
せめてあと一度舞台を踏まない限り、あたしはまだ満足して死ねんよ。
*巴*